政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
なにか話していないといられなかった。今にも舞い降りそうな甘い空気に明花は耐性がない。
「それから……」
ほかになにか今、伝えることはないかと思考回路を駆使してサーチする。
「それから?」
「なんでしょうね」
困ったことになにも浮かばない。
そんな明花の返答に貴俊がふっと笑う。意表を突かれて出てしまったような笑いだった。ちょうどお見合いで明花が趣味を尋ねたときのように。
「いい妻になる必要はない」
真上から見下ろす彼の目は底抜けに優しかった。
そんなふうに明花を見つめてくれたのは、亡くなった母ひとりだけ。父ももちろん優しかったが、贖罪が色濃かったように思う。罪滅ぼしの優しさだったのだ。
「明花は明花のままでいい」
「私のままで……?」