政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「お母さんもそう思うでしょう? 」
「ええ、佳乃の言う通りよ。私たちに恩返しをする絶好の機会じゃないの。あなたの母親には慰謝料だって請求できたのよ? それをせず最後には認知まで許したっていうのに」


照美の鋭い眼差しが明花に飛んできた。拒否を許さない断固とした姿勢だ。
佳乃まで〝まさか断るつもり?〟と目で言っている。

いくら冷遇されてきたとはいえ、幼い明花が生きてこられたのは、彼女たちのおかげであるのは覆せない事実だ。ふたりが認めなければ、明花は施設で暮らしていただろうから。

施設育ちの高校時代のクラスメイトは、職員からセクハラやパワハラなどはあたり前で、何度も飛び出したことがあると話していた。
もちろんそんな施設ばかりではないと思うが、肩身が狭いにせよ明花が父親と暮らせたのは、秋人のお願いにふたりが首を縦に振ったからにほかならない。


「照美も佳乃も、よしなさい」


見かねたのか、秋人が制すと、照美は眉を左右非対称につり上げた。
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