政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
呪縛から解き放たれて
今年は明花にとって盛りだくさんな春だった。
家業の危機を知り、貴俊とのお見合い、そして結婚と目まぐるしく日々が過ぎ、明花の環境は様変わりした。
貴俊との結婚生活がはじまって一カ月半、それまでの人生が嘘のような満ち足りた毎日を過ごしている。日陰の身だった明花は、まるで生まれ変わったよう。
家事は全般的に苦手な貴俊だが、明花ひとりに押し付けるわけでもなく、ときにふたりでキッチンに立つのが楽しみでもある。
貴俊の提案で週に何度かハウスキーパーやランドリーサービスを利用しているため明花の負担も独身のときとさほど変わらず、仕事を続けていられるのはありがたい。
結婚式の準備も少しずつ進めている。華やかな場が苦手な明花はできればひっそりと式を挙げたいが、大企業の御曹司である貴俊はそうはいかない。
時期ははっきりと決めていないが、なるべく早くしようと貴俊は言っている。
明花との時間を割くために貴俊が無理をしているのではないかと心配したが、仕事は順調なようだった。つい先日は初めて経済誌のインタビューに答えたらしく、桜羽ホールディングス次期社長の初顔出しだと話題になった。
梅雨入り間近にもかかわらず、六月の空は見事に晴れ渡っている。