政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
「よしなさいって、そもそも誰のせいでこんな話になっていると思ってるの。全部あなたのせいでしょう? 浮気して子ども作って、今度は会社の経営が悪化? そんなの知らないわよ」
「それに関しては私の不徳の致すところだ……。だが明花に責任はない。責めるなら私だけにしてくれないか」
「お父さん、私は平気だから」
場を収めようとする秋人を取りなす。
悪態をつかれるのは慣れているし、明花を庇えば秋人の立場がさらに悪くなるだけだ。
(私ならまだしも、家族の中でお父さんの地位を今より下げたくない)
ふたりの怒りの矛先は明花にだけ向くのが一番。幼い頃この家に引き取られてから、明花はずっとそうして生きてきた。明花が耐えれば済む話だ。
「いつまでもそうやってふたりで傷を舐め合っていればいいわ。とにかく私は、そんな結婚はしません。あとはお父さんと明花のふたりでやって」
「そうね、自分の尻ぬぐいくらいしっかりやってちょうだい」
佳乃と照美がまくし立てるように言いながら立ち上がる。恨みのこもった眼差しを明花と秋人に向け、わざとらしくスリッパの音を立ててリビングから出ていった。