政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
「あざ笑ってなんて」
明花はただ、雪平ハウジングを救いたい一心だったのに。
「それなら早く妻の座を佳乃に明け渡しなさい」
「だいたいあなたは雪平家のまっとうな血筋じゃないでしょ。長女は私よ? 政略的な婚姻を結ぶのなら、長女の私じゃないとおかしいじゃないの。そもそも愛人の子のくせに、桜羽グループの御曹司に嫁ぐなんて、よくできたものだわ」
「このまま結婚を継続すれば、桜羽グループにとっても大きなマイナスだってわからない? 桜羽の名を汚すのよ。だから早く離婚しなさい」
ものすごい剣幕だった。明花が口を挟む隙もない。
理不尽な要求だとわかっていても、ふたりを前にすると明花はどうしても委縮する。貴俊からもらった自信が、今にも根っこごと引っこ抜かれてしまいそうだ。
二十年以上もの間、向けられてきた憎しみが、明花を容赦なく過去に引き戻そうとしていた。
(でも……)
そこでかろうじて思いとどまる。
(私はもう昔の弱い私じゃない。人に恥じるようなことはなにもしていないんだから。貴俊さんもそう言ってくれたじゃない)