政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
ふたりだけになった途端、部屋の空気が軽くなった気がする。明花は無意識に息を細く吐き出した。
「本当にすまない。父さんが不甲斐ないばかりに、明花には小さい頃から苦労ばかりかけて……」
秋人は肩で息をするように上下させる。ふたりから辛辣な言葉を投げられ、意気消沈してしまったみたいだ。
「そんなのいいの、お父さん」
明花は四歳で雪平家に引き取られたときから厳しく家事を仕込まれてきた。料理はまだしも、掃除や洗濯はほぼ明花の仕事。しっかりできなければ食事を与えてもらえないこともあった。
見かねた秋人がこっそりおにぎりを準備してくれたときもあったが、出張で不在のときには丸一日食事をとれないときもあった。
亡くなった母がクリスマスに買ってくれたクマのぬいぐるみを『汚ないから』と捨てられたときには、三日三晩泣き続けた。
母親のそんな対応を見て育った佳乃が、明花にきつくあたるのは自然な流れだろう。物が紛失すれば明花が盗んだと言い、なにかが壊れれば明花の仕業にするなど、すべてにおいて明花に責任転嫁してきた。