政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

ある程度の年齢になって明花の出生の秘密を知ってからは、ますます助長したものだ。
ふたりは外へ出ればそんな態度は微塵も見せないため、世間的には〝夫の愛人の子どもを引き取った、心優しい母娘〟と認識されていた。

明花自身もその待遇を受け入れなければ生きていけない。愛人の子であれば致し方のないこと。ふたりの気持ちを考えれば当然の仕打ちだと我慢してきた。


「それより、会社が大変な状態なのを知らずにいてごめんなさい」


就職を機にここを出てから、つい足が遠のいていた。少なくとも秋人はじつの父親なのだから、もっと気にかけるべきだったのにと後悔に襲われる。


「いや、明花は気にしなくていいんだ。それよりさっきの話だが、もしも好きな人がいるのなら無理に進める必要はない。政略結婚など、最初から苦労するのが目に見えているから……」


秋人は目線を落とし、息を軽く吐き出した。

結婚当初から、秋人は照美とは馬が合わなかったと言う。しかし会社同士の繋がりがあるため性格の不一致で離婚するわけにはいかない。
両家から希望されていた子どもはなんとか授かったものの、気性の荒い照美は些細なことで怒るため、秋人は常に疲弊していたらしい。