政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
そこで明花は合点がいった。
入店したときにフロアの男性スタッフがハッとした様子だったのも、シェフとの会話の不可解さも。すでに引き抜きの話が済んでいたのだ。
「ちょっとあなた、自分がなにをしているかわかってる?」
それまで貴俊に媚を売っていた照美が、態度を一変させる。ようやく自分の状況のまずさに気づいたらしい。
「これまで明花にしてきたように、あなたのものを奪っただけ。因果応報。罪の重さを存分に味わうといい」
貴俊は気圧されるほど冷たい声で、容赦のない言葉を浴びせた。
それは隣にいる明花でも震えを覚えるほどの迫力だった。
「そんな……」
照美がその場に膝から崩れ落ちる。視線は宙を彷徨い、酸素を求めるよう口をパクパク開いた顔はとても憐れだった。