政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
「あぁ、それから、名誉棄損の訴えを起こしていますので、裁判所から書面が届くと思います」
やけに丁寧な口調が、かえって冷ややかだ。
「訴訟!?」
「名誉棄損ってなに」
照美と佳乃の声が裏返る。
「明花を誹謗中傷したのをお忘れだと? 記憶力が危ういとは、つくづく憐れとしか言いようがない」
「し、知らないわ、そんなの」
「言い逃れは無駄だ。証拠はすべて揃えてある」
貴俊はさらにべつのファイルを彼女たちに見せた。
それを覗き込もうとした明花を貴俊が止める。
おそらくそこには明花を罵倒した言葉が並んでいるのだろう。明花にはそれを見せたくないという彼の優しさだ。
照美と佳乃は書面を奪い取り、形相を変えて見入った。
「今後、明花を貶めるような真似をしたら、この程度では済まされないと覚えておくといい。次は容赦なしだ」