政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
貴俊の横顔に鮮烈な怒りが滲む。棘のある声は、目の前のふたりを震え上がらせた。
「お母さん、私たちこれからどうするのよ!」
照美の肩を揺らす佳乃の声が店内に響き渡るなか、貴俊は「行こう」と放心状態の明花の背中をそっと押して促した。
真の意味で彼女たちと決別できた事実が、明花の心をこれまでになく軽くする。
外はまだ雨模様。でも先ほどよりはだいぶ小降りだ。
(このくらいの雨なら……)
ふと昼間の出来事が明花の頭に浮かんだ。
傘を差そうとした貴俊を引き止める。
「貴俊さん、車まで雨を避けていきませんか?」
「雨を、避ける?」
貴俊は不思議そうに聞き返した。
「今日、万智ちゃんとお昼を食べたあと雨に降られたんですが、傘がなくて。そしたら万智ちゃんが『避けて走りましょ』って」
貴俊が口角を上げてにっこり笑う。