政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
「いいね、おもしろそうだ。よし、行こう」
左手に傘とブリーフケース、右手は明花と繋いで店のエントランスから走りだした。
街のカラフルなネオンが映り込んだ水たまりを蹴り、降り注ぐ雨の雫から逃げる。ぴょんぴょん跳ねる足取りは、気分同様、ステップを踏むように軽い。手を引かれて右に左に振られ、時折貴俊と体がぶつかるたびに笑いが巻き起こった。
「明花に騙されたな」
車に乗り込んですぐ、貴俊が軽く睨んで続ける。
「避けられなかったじゃないか」
つい笑ってしまった。当然とはいえ、ふたりとも髪や服が濡れている。
「おかしいですね。雨のほうがすばしっこいみたいです」
「なるほど、俺たちが鈍いせいなのか」
「だけど、思ったほど濡れていませんから」
バッグから取り出したハンカチで彼の髪を拭う。
小雨のおかげでびしょ濡れにはなっていない。