政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
貴俊がハンカチを奪い取り、明花の頬を拭う。熱を孕んだ空気がにわかに舞い降り、胸が高鳴っていく。間近で絡んだ視線を逸らせない。
「明花」
吐息交じりの囁き声はキスの合図。どちらからともなく引き寄せられ、唇を重ねる。
柔らかな感触を楽しむように何度も角度を変えるキスは、次第に深く甘くなっていく。雨に濡れた体は痺れ、それだけで物足らなくなるのは当然の成り行きだった。
「明花、早く帰ろう」
最後にリップ音を立ててキスを解いた貴俊は、エンジンをかけ車を発進させた。
早く触れ合いたい。
S極とN極を無理やり引きはがした感覚が、体じゅうに駆け巡る。互いに強く欲しているのを肌で感じていた。
赤信号で足止めされるたびに気持ちが逸り、青信号に切り替わるまでを頭の中でカウントした。
マンションの部屋に帰り着くなり、強烈に引き合うのを止められない。後ろから抱きしめられた瞬間、自分が思う以上に焦がれていたのを痛切に感じる。
玄関のオートロックが締まるのと、振り向かされて唇を奪われるのはほぼ同時だった。