政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
遠い記憶の結び目


夏の日差しがやわらぎ、秋の気配が見えはじめた九月下旬、仕事が休みの明花は大事な封筒を抱えて桜羽ホールディングスの本社に向かっていた。
十一月下旬に予定されているふたりの結婚式の準備が急ピッチで進められており、貴俊に招待客リストを確認してもらうためである。

午前中に連絡がありブライダルサロンへ立ち寄り、その足で向かっている。自宅で見てもらえば済む話ではあるものの、昼休みに彼から電話が入った際にその話を振ったところ、午後に時間が取れるから会社に来てほしいと要請があったのだ。

仕事の邪魔はできないと何度も断ったが、打ち合わせの合間の休息に付き合ってほしいと言う。


『正直、リストの確認というより明花の顔が見たいだけ』


そう言われれば、明花は簡単に浮かれてしまう。いそいそと支度をしてマンションを出た。

貴俊が照美と佳乃と対峙して以降、ふたりからの嫌がらせは嘘のように止んだ。
会社を追われ、レストランは閉店。さすがにその一件で秋人も庇う気持ちがなくなったのだろう。照美は離婚も余儀なくされた。

貴俊に強く釘を刺されたふたりは、おそらく今後明花の前に現れることはない。
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