政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
駅から徒歩五分。高層ビルが建ち並ぶオフィス街でとりわけ高いビルを目指す。
時折秋めいた風が髪を揺らす中、足取りも軽く歩いていると、前方の植込みで蹲っているスーツ姿の男性がいた。
(こんなところでどうしたんだろう。具合でも悪いのかな。……あれ? 見たことがある気がする)
横顔をまじまじと見ながら近づいて気づく。
「三橋さんですか?」
貴俊のアメリカ時代の友人だ。
以前、貴俊と招かれたイタリアンレストランのオーナーであり実業家の三橋壮太だ。
ゆっくり顔を上げた彼が〝誰?〟といった様子で目を細める。
「桜羽の妻です」
「……あぁ、タカの」
一拍あってから思い出したように頷いた。
「はい、明花です。どうかされましたか? ご気分でも悪いですか?」
「ちょっとね」