政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

それからおよそ二週間が経った土曜日の午後、お見合いとは名ばかりの両家の顔合わせの場がホテル『ラ・ルーチェ』のフレンチレストランに設けられた。
赤と黒を基調としたインテリアはモダンな雰囲気で、上質な時間を過ごせそうな空間だ。

膝丈まであるライトブルーのワンピースに身を包んだ明花は、四月初旬に相応しいやわらかな印象である。

先方より先に到着した明花たちは、緊張した面持ちで通された個室のテーブル席に並んで座った。高層階の窓の外には遠くまで街並みが広がるが、それに目を向ける余裕はない。


「そんなに堅くならないで」


そう言う秋人も、先ほどから額に滲んだ汗をハンカチで拭っている。


「わかってるんだけど……」


これから未来の夫となる人物に会うのかと思うと、どうしたって緊張してしまう。しかも、どんな人なのか顔すら知らないのだから。明花が持っている情報は、決して良いとは言えない噂話だけだ。

(いったいどんな人がここに現れるんだろう……)
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