政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
休みだから時間はある。普段はつい手間がかからないものになりがちだが、今日は煮込み料理だってオーブン料理だってできる。
明花が尋ねたそのとき、エレベーターが静かに停止する。一階に到着したのかと思いきや、扉は開かない。
「開かないですね」
「ああ。たぶんまだ一階には到着してないだろう」
「えっ、それじゃ途中で止まってしまったんでしょうか」
不安に包まれた明花が声を震わせると、今度はエレベーター内が不意に暗くなった。
「きゃっ」
思わず悲鳴が漏れ、貴俊の腕にしがみつく。
「大丈夫だ。おそらく点検だろう。停止板を立て間違えたか」
こんなときでも冷静な貴俊は明花をそっと引き寄せた。
「大丈夫でしょうか……」