政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
声が震えるのが自分でもわかる。
(このままここに閉じ込められたりしない? いきなりワイヤーが切れて、階下まで落下しない?)
不安の種が明花の頭に次々と浮かんでは消えていく。
「じきに動くだろうから心配いらない。俺がいるだろう? なにも怖がる必要はない」
「そう、ですよね」
これは点検。なにも問題はないと自分に言い聞かせる。
彼の力強い言葉に励まされ、体の震えが収まっていくのを感じる。非常灯がぼんやり灯る中、ふと幼い頃の出来事を思い出した。
あれは明花がまだ小学生にも満たない年齢のときだった。こんなふうに暗く狭い場所に閉じ込められて泣きじゃくった記憶だ。
(たしか珍しくお義姉様に誘われて公園で遊んでいて……)
明花はいきなり物置小屋のようなところに押し込められた。外に出ようとしたが中からはなぜか扉が開かず、どんどん日は落ちて暗闇が迫りくる。あまりの恐怖で泣き叫んだ、辛い記憶が唐突に蘇ってきた。
再び体が小刻みに震える。