政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
『このおうちからだして。めいか、おにいちゃんといきたい。けっこんしたら、おうちをでられるんでしょう? だからけっこんして』
それは鮮烈な記憶の再生だった。
「貴俊さんは、もしかしてあのときの……」
ひとり言のようにぽつりと呟く。
もしかしなくても、きっとそう。
明花の中でおぼろげだった記憶が今、はっきりと姿を現した。
「貴俊さんは覚えていないかもしれませんが、私、幼い頃に貴俊さんに助けてもらっています」
ただ単に同姓同名なのではない。絶対に同一人物だという自信が、なぜか明花にはあった。
どうしてなのかはわからない。でもそうなのだ。
「覚えてる」
「……え?」
薄明かりの中、貴俊を見上げる。
「だから明花を迎えにいった」