政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
それは予期せぬ告白だった。
「それじゃ、あの約束を守るために?」
子どもの頃に交わした、他愛のない約束だったのに。
「ずっと覚えていたわけではないが、帰国後、専属秘書を選抜するためにグループ企業の中から優秀な人物をリストアップしたとき、たまたま明花の名前を見かけてね」
糸井が先ほど『じつは以前』と言いかけたのは、このことだったのかもしれない。貴俊に制されて口を噤んでしまったけれど。
「もしかしてこの子は、あのときの子なんじゃないかって唐突に思い出した。今、明花が誰かと幸せでいるならそれでいいと思ったが……」
「片野不動産に来たのは、私に会うため?」
「約束を覚えていようがいまいが、どんな女性に成長したのか会ってみたかった。まさか、大人になったキミに恋するとは思いもせずね」
レベルに見合う物件はいかにもなさそうな不動産に、なぜ貴俊が訪れたのか不思議だったが、こういうわけだったのかとようやく説明がついた。