政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「調べていく中で雪平ハウジングの経営難を知って、これなら無理なく明花を雪平家から引き離せると考えたんだ。一刻も早くそうしたかったから、恋愛から結婚に持ち込む時間が惜しかった」
「どうして約束のことを話してくれなかったんですか?」


貴俊が話してくれれば、きっとそのときに思い出したはず。政略結婚の形を取らなくてもよかっただろう。


「義理の姉に意地悪された辛い過去なんか覚えていないほうがいい。明花が忘れているのなら、嫌な記憶をわざわざ蘇らせたくなかった」


明花の肩に乗せられた貴俊の手から、あたたかさがじんわり伝わってくる。
貴俊と再会したあのときから、明花は彼の優しさに守られていたのだ。


「貴俊さん、ありがとうございます……」


熱い想いが胸に込み上げてくるのを止められない。
悲しいだけだった過去の記憶の中に、今はっきりと貴俊の存在を見つけた。
あのときの小さな出会いが、明花を最上級の幸せに導いてくれたのだ。
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