政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「思い出して辛くないか?」


それでもなお明花を心配する貴俊を笑顔で見上げる。


「それどころかとっても幸せです。私、貴俊さんに会えて本当によかった。あのとき全力で助けを呼んだ自分が誇らしいです」
「明花の声に気づいた俺は、大手柄を上げたわけだ」
「そうですね」


どちらからともなく顔を寄せ合い、唇が重なる。
人には幸せと不幸せが平等に訪れるという。

(だとしたら、この先の私にはきっと幸せしか訪れない)

二十数年の時を経て、貴俊と巡り合えた奇跡に明花は心から感謝した。

キスを解くと同時に、まるでタイミングを見計らったかのようにエレベーター内が明るくなる。


「動きだしそうだな」


パネルが点灯し、再びゆっくりと下降をはじめたエレベーターは無事に一階で停止した。
扉が開き、その先にいた作業員が驚いて目を見開く。
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