政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
世界で一番の幸せ者
遠くまで澄み渡る青空にひと筋の飛行機雲が長くたなびく。
十一月も終わりの爽やかな空は、貴俊と明花の門出を祝うかのように美しい。
これから執り行われる式を前に、明花の準備を待つ貴俊は光沢のある白いタキシードに身を包み、外の空気を吸いにやって来た。
立派なガーデンは紅葉が進み、赤や黄色の葉が鮮やかな色を見せている。その中に建つ真っ白なチャペルは、まるでおとぎの国に迷い込んだように美しい。
清々しい風が、セットした貴俊の髪を揺らして逃げていく。
明花とはすでに結婚生活をはじめているのに、やけに神聖な気持ちになるのはチャペルという場所柄か。襟を正して背筋を伸ばしたくなる。
「貴俊」
名前を呼ばれて振り返ると、そこに父の丈太郎がいた。
太陽の眩しさに目を細めながら、丈太郎が近づいてくる。
「我が息子ながら立派な姿だな」
「やめてくれ」
大袈裟すぎてかなわない。