政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

丈太郎が顔を曇らせる。


「なにがあったか教えてくれ」


貴俊が食い下がると、丈太郎は深く息を吐いて続けた。


「病気が見つかったんだ。それも完治が相当難しい病気だ。貴俊を引き取れば、治療に専念するのは難しいだろう。だから泣く泣く諦めた。そして治療の甲斐もなく……」


母親が病気でこの世を去ったのは貴俊も知っている。だが、そんな事情が隠されていたとは知る由もない。
丈太郎はそこで唇を噛みしめた。離婚した妻への、やり場のない複雑な感情が滲む。

もしかしたら丈太郎も、妻との離婚は本意ではなかったのかもしれない。だが仕事に忙殺され、寂しい想いをしている妻を引き止めるのは酷だと思ったのだろうか。


「それならせめて病気だと知らせてほしかった」


一緒に暮らすのはともかく、見舞いにだって行けたはずだ。
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