政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
明花が頷く。
『今これから?』
『ぜひそうしたいです。お義母様、きっと貴俊さんの晴れ姿を見たかったと思うんです』
まるで丈太郎との会話を聞いていたかのよう。
『もう着替えてしまいましたけど、せっかくだから今日お会いしたい。……ダメですか?』
めったにわがままを言わない明花にそう言われれば、貴俊は叶えてやらずにはいられない。なにより母親に明花を引き合わせたかった。
タクシーを飛ばして着いたのは、都心からそう遠くない霊園だった。遠くに海が見渡せる、とても見晴らしのいい場所だ。母方の祖父母が眠る墓に桜子は眠っている。
じつは墓参りに来るのは初めてだった。捨てられた感が強く、どうしても来られなかったのだ。
丈太郎の告白を聞かなければ、永遠に訪れなかったかもしれない。明花に誘われたからこそ、こうして足を運べたのだ。
霊園の管理者に案内され、母の墓石の前に立つ。
「母さん、なかなか来られなくてごめん」