政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
そう言ったあと、言葉が続かなくなった。
何年も不義理をしてきたのは自分のほうだと知ったから。
それを察したのか、明花が貴俊の背中に手を添える。大丈夫だと言われた気がした。
「俺の奥さんを連れてきた」
「初めまして、明花と申します。貴俊さんのことは私が幸せにしますので、安心してください」
頼もしい言葉が貴俊を優しく包み込む。
明花は途中、フラワーショップで用意した花を花瓶に移し替えた。ピンクや白のかわいい花のおかげで、無機質な墓石が一気に華やぐ。〝桜子〟という名前にぴったりだ。
「素敵な女性だって言ってる」
「お義母様が? うれしい」
笑みを零しながら手を合わせる明花の隣で、貴俊も手を合わせた。
暮れていく薄紫の空に、遠く一番星が輝く。
「明花、俺をここに連れてきてくれてありがとう」
「私のわがままを聞いてくれてありがとうございます」
笑い合った明花の額に唇を押し当てた。
世界中の誰よりも、一番幸せな男だと実感しながら。