政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

あまり抑揚のない言い方なのに、どことなくあたたかみのある声だ。貴俊は膝の上に手を置き、背筋を伸ばしたまま軽くお辞儀をした。


「本来であれば私の弟である貴俊の父親がここへ来るべきなのですが」
「いえいえ、大企業のトップですからお忙しいのは承知しております」


貴俊の父親から、急な仕事でカナダへ発たねばならなくなったと昨夜、秋人のもとに連絡が入っていた。顔合わせの日時変更も考えたそうだが、貴俊の希望もあり予定通り執り行いたいと。

心から非礼を詫び、くれぐれも息子をお願いしますと託す謙虚な姿勢に、秋人は感心しきりだった。大企業のトップなのに格下の秋人をぞんざいに扱わないスタンスは素晴らしいと。
それでこそ日本を代表する会社のトップだとも言える。


「お気遣いをありがとうございます。普段私もアメリカで仕事をしているのですが、ちょうどタイミングよく帰国していたので、明花さんにお会いできてうれしいです」
「ありがとうございます」


八重が品のいい笑みを向けてきたため、明花も秋人も慌てて頭を下げた。
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