政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

ほどなくして運ばれてきたスパークリングワインで乾杯をする。フレンチのコース料理がゆっくりサーブされはじめた。
熟成イベリコ豚の生ハムの前菜は、季節の花である菜の花が散らされ、オレンジソースの色との彩りが美しい。もちろん味も抜群である。


「資金援助だけでなく、貴俊さんのような立派な青年との縁談までご提案いただき恐縮です」
「雪平ハウジングさんの断熱工法は業界ではかなりの高評価ですから。それをグループ会社で共有させていただけるうえ、こちらから一方的に提案した縁談をお受けいただき、私のほうこそ光栄に存じます」


神妙な様子の秋人に、貴俊が紳士的な面持ちで淀みなく返す。日本屈指の企業を背負って立つ、次期社長の自信が全身から漲っていた。

そこで明花はますますわからなくなる。どうしてこれほどの男が、わざわざ格下の会社との結びつきを婚姻で目指そうとするのか。高断熱工法を手に入れる対価なら、資金援助だけで十分だろう。

佳乃が言っていたような理由があるならまだしも、貴俊にそのような要素は見受けられない。冷酷かどうかはまだわからないが、少なくとも容姿のせいで縁談がことごとくうまくいかなかったというのはないはずだ。

むしろ肩書きと容姿だけで、女性たちがこぞって好意を向けてくるのではないか。恋人がいないほうが不自然だ。
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