政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

還暦を迎えれば当然だが、七三に分けた秋人の髪には白いものが多くなり、目尻の皺も深くなった。少し痩せたのか、背が高くがっちりとしていた体形はここ一年でほっそりしたようだ。
もともと優しい感じを受ける見た目は、さらにその印象が強くなったように明花には見えた。


「お義母様とお義姉様は?」


声を抑え、探るように尋ねる。ふたりとは極力顔を合わせたくない。

明花が実家から足が遠のく理由をよく知る秋人だから、彼女たちがいないのを見計らって呼んだのではないかと僅かな期待を抱いたが……。


「中にいる」


そうではなかったようだ。
秋人が家の奥を親指で差しながら答える。そもそもふたりきりで話すのなら、わざわざここへ明花を呼ばずに外で会う算段をするだろう。


「悪いな、明花」


顔を曇らせた明花を見て、秋人はハの字になるほど眉尻を下げた。
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