政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

(それともなにか違う原因でもあるのかな……)

もしかしたら彼は社会的な立場から、妻が欲しいだけなのかもしれない。愛だの恋だのは必要なく、世間体のために結婚するだけ。相手は誰でもいいのではないか。

もしくは恋人が何人もいて、その存在を黙認するのが条件だとか。
愛人の娘として雪平家に引き取られた人間なら、多少の冷遇は耐えられるだろうと見越したからこそ、明花でも納得したのかもしれない。むしろそのほうが好都合だ。

明花がそんな考えを巡らせているうちに、秋人と貴俊の間でビジネスの話が繰り広げられていく。それに加わる八重の話しぶりから、彼女もアメリカでなにか事業をやっているようだった。

兄妹揃って社長とは、さすが桜羽一族だと感心してしまう。やはり身近に成功者がいるのは大きいのかもしれない。

刺激を受けつつ聞き入っていると、八重がふと我に返ったように明花を見る。


「明花さん、ごめんなさいね。仕事の話ばかりしちゃって」


気づけば料理もデザートまで進んでいた。
風味が爽やかなレモンタルトを食べ終えた明花は、ナフキンで口元を拭う。
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