政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
「明花、私は下のラウンジにいるから、貴俊さんとゆっくり話しておいで」
「はい」
秋人は貴俊に「よろしく頼みます」と告げ、八重と個室をあとにした。
デザートの皿が片づけられ、コーヒーがそれぞれの前に置かれる。
なにから話したらいいだろうかと考えながら、グラニュー糖を入れてスプーンでかき混ぜる。
(こういうときの質問の定番といったら……)
明花の頭の中には、もはやひとつしか浮かばなかった。
「あの、ご趣味は?」
そう尋ねた瞬間、貴俊がふっと笑う。意表を突かれて出てしまったような笑いだった。
「あ、いや、ごめん」
口もとを押さえ、笑いを堪えるようにする。
不思議と嫌な感じがしないのは、それがやわらかい笑顔だったせいか。少なくとも嘲笑とは違った。
「すみません、変な質問をしてしまいました」