政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
人材不足に悩む秋人にとって、有意義な話を聞けたようだ。
乗り込んだタクシーがゆっくり発進する。
「貴俊くんとはいろいろ話せたかい?」
「そんなにじっくりではないけど、うん」
なんとはなしに落とした目線の先に指輪を見つけ、今日の出来事が夢ではなかったのだと実感する。
(私、本当に結婚するんだ……)
いつかはそんな日がくると漠然と考えていたが、それが今、現実のものになろうとしている。どことなくふわふわと落ち着かない気分だ。
相手が大企業の御曹司という、人生で接点を持ちそうにない人物というのもあるだろう。
「明花、本当に済まないね。意に添わない結婚がどれほど大変か、父さんが一番よく知っているというのに」
「気にしないで、お父さん。私は大丈夫よ」
秋人は申し訳なさそうに唇を噛みしめた。
言葉を借りるなら、意に添わない結婚ではない。彼との間に愛はなくても、明花には雪平ハウジングを救いたいという〝意〟があるのだから。
どんな生活になろうと、雪平家での扱いを思えばなんでもない。