政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
時刻は八時半。始業時間ぴったりに現れたのは、ただひとりの同僚、三井万智である。
明花のひとつ年下、二十五歳の彼女は金色に近いワンレングスのボブヘアで、猫のように大きな目をしたかわいらしい女性だ。
「万智ちゃん、おはよう」
「いつも掃除を押しつけちゃってすみません」
バッグを急いでキャビネットにしまい、顔の前で両手を合わせる。
「私のほうが後輩なんだから気にしないで」
「そうですか? それじゃ、もっとしっかりやりたまえ、明花くん。な~んてね」
手を腰にあて、命令口調でおどけたあとにふふふと笑う。
万智は明花よりも半年ほど早くここで働きはじめているため、年齢的には年下だが仕事上では先輩だ。
「でも本当にすみません。毎朝早い時間に目覚ましはセットしてるんですけど……」
万智は朝が弱いらしく、目覚まし時計を何個準備しても一向に起きられないという。
それでもかろうじて遅刻せずに出勤できているのだからすごい。