政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
それとなく秋人に目線を送ってみたが、ちょっと待ってという意味か頷き返されるだけ。意図を図りきれない。
ほどなくして賑やかな話し声とふたり分のスリッパの音が近づき、ドアが開く。義母の照美と、明花とは二歳違いの義姉・佳乃が現れた。
「……こんばんは」
手を膝の上に揃えて背筋を伸ばし、明花から挨拶をする。ズーンと重くなった胃に手をそっとあてた。
「あら、珍しい人がいるわね」
秋人から聞かされていなかったのか、明花を見た途端、照美の顔色が変わる。
それとも知っていたうえでの嫌味なのか。嫌悪を隠しもせず片方の眉をつり上げ、一重瞼の目を糸のように細めた。
パーマでボリュームをもたせたショートヘアの耳元から、大ぶりのパールのイヤリングを覗かせる。胸元のネックレスとお揃いだ。
「今日はお父さんに呼ばれて……」
目線を下げたまま答えた。