政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「おはよう。女性三人でいったいなんの話で盛り上がってるんだい?」


遅れて出社してきたのは、片野不動産の社長、片野富一である。でっぷりしたお腹は貫禄があり、いかにも社長という風情。妻の隆子同様、気のいい人物だ。


「明花ちゃんが結婚するだって」
「ええっ? 明花ちゃんが? それはめでたいね。お祝いがてら一杯やろうか」
「あなた、いくらなんでも職場で朝からお酒なんてダメよ」
「だってさ」


妻に叱られ、富一は肩をすくめてさらに続けた。


「ところで結婚したら、やっぱりうちは辞めちゃうのかい?」


富一に聞かれてハッとする。そういった話はまだ彼としていなかった。
大企業のトップに立つ人の妻ともなれば、夫を支えるためにも専業主婦のほうがいいのかもしれない。


「もしかしたら辞めなくてはならないかもしれません」
「そうか……」
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