政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「あなたったら、おめでたい話なんだから、そんな顔をしないの」


顔を曇らせた富一を隆子がすかさず説き聞かせる。スナップを効かせた手が宙を切った。


「まぁそうだな。明花ちゃん応援団として失格の烙印を押されかねない」


気を取りなおし、笑顔を取り戻した富一が頷く。
応援団とはありがたい。


「確認しておきます」
「うちとしては、できれば続けてほしいんだけどね」
「ありがとうございます」


うれしい言葉には感謝しかない。というのもここに転職してから、夫妻には迷惑をかけていたから。

大学卒業を機に明花が家を出たのが気に入らなかったらしく、照美と佳乃の嫌がらせは就職先にまで及んだ。
明花の顔を見なくなったのは喜ばしいが、いっさいの家事を請け負っていた人間がいなくなったのは腹立たしく、罵ることで解消していたストレスを発散するためだったのだろう。
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