政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

〝子どもの頃から万引き常習犯〟〝妻子のいる男性を誘惑する女〟〝卑しい女〟など、明花を中傷する文書が会社宛てにメールやFAXで送られ、インターネット上には実名で悪口を書き込まれた。

事実無根であっても社内で明花の悪い噂が立つのは当然の流れ。次第に居づらくなり、数カ月単位で職を転々としてきた。

片野不動産の直前には桜羽グループ傘下の企業にいたが、そこでも同様の事態となり退職した。
この職場にも彼女たちの嫌がらせの手は伸び、同じような攻撃を受けたが、片野夫妻はいっさい信じず『辞める必要はない』と言ってくれている。本当にありがたく、感謝の気持ちでいっぱいだ。

(できれば働き続けたいな……)

ここは、ようやく見つけた安住の地とも言えるから。


「それでお相手はどんな人?」


富一に尋ねられ、明花はもう一度最初から話して聞かせた。
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