政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「今朝話したお見合いの」
「ええっ! あの桜羽グループの!?」


明花が最後まで言うより早く、万智が素っ頓狂な声をあげる。貴俊と明花を交互に見比べる目は、今朝話したときのように真ん丸だ。


「こんなにイケメンだなんて聞いていないんですけど……!」


万智は明花にぼそっと耳打ちするが、内緒話にはなっていない。興奮のせいで声が大きいのだ。
貴俊はそんな言葉には慣れっこらしく、穏やかな表情を崩さない。


「いったいなにごとなの?」


騒ぎを聞きつけた隆子まで奥から現れた。


「隆子さん! 明花さんの結婚相手の方がいらしたんですっ」
「この方が? まあまあ、そうなんですか!」
「桜羽貴俊と申します」


頭を下げる貴俊にふたりも名乗りをあげる。富一は外出中のため、あとできっと残念がるだろうと隆子が言えば、万智は好きな食べ物まで披露してしまうテンションの高さだった。
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