政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

ふたりに見送られて片野不動産を出る。貴俊はすぐ前のコインパーキングに止めてある車に明花を案内した。
ピカピカに磨かれた黒い車は、車種に詳しくない明花でも知っている超高級車である。

助手席のドアを開けてくれた貴俊にお礼を言いつつ、車に乗り込む。黒いレザーシートとウッド調の内装は、外観から想像した通りの豪華さだ。


「先日はいろいろとありがとうございました。それで今日はどのような……?」


貴俊が現れて大騒ぎになったため、彼が現れた理由を聞きそびれていた。


「用事がないのに会いに来るなって?」


運転席に座り、エンジンをかけた貴俊が自嘲気味に笑う。


「いえっ、そうではなく、急にどうしたのかなって」


決して責めたわけではないと慌てて訂正する。彼のしたいように行動してもらってかまわないのだから。
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