政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
もしかしてメッセージでも届いていたのかとバッグからスマートフォンを取り出したが、彼からの連絡は入っていなかった。貴俊とは土曜日にお礼のメッセージをやり取りしたのが最後だ。
「食事でもどうかと思って。まぁ大事な要件もあるにはあるけど、婚約者ならこうして会うのは普通だろう?」
「そう、ですね」
結婚前提のふたりなら彼の言うようにあたり前だ。
明花が戸惑うのは、知り合ってまだ日が浅いせいだろう。なにしろ貴俊とは二日前に出会ったばかりだから。そもそも恋愛経験がないため、婚約者はもちろん恋人同士の感覚がよくわからないのもある。
「納得してもらえたようだから出発しよう」
「はい……」
それに貴俊は、あくまでも明花を婚約者として扱っているだけ。相手が明花でなくても〝婚約者〟であれは、同じようにするだろうから。他意も好意もない。
貴俊は車をゆっくり発進させた。
「なにか苦手な食べ物は?」
不意に尋ねられ、ひとつだけ浮かんだものがあるが、そんなわがままは言えない。