政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「特にありません」
「今、微妙な間があったな」
「えっ」


すぐに答えたつもりなのに、なんて鋭いのか。


「我慢大会にしたくないから教えてほしいんだけど」
「我慢大会、ですか」
「明花なら苦手なものでも我慢して食べるだろう? そんな楽しくない食事の場にはしたくない」


明花を見る優しい眼差しの中に、強い意思を感じる。
今まで父親以外で明花の本音を気にかけてくれる人などいなかった。それが明花にとっての日常だった。

(言ってもいいのかな……。私の意見なんて聞いてもらっていいのかな)

迷う明花を貴俊のゆっくりした瞬きが促し、打ち明ける方向にどんどん傾いていく。


「おでんが……おでんが苦手です」
「ピンポイントにきたね」
「ごめんなさい」
「謝る必要はない。はっきり〝これ〟と言ってもらったほうがいいから」
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