政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

小学二年生のとき、義姉の佳乃にされたいたずらが発端だった。おでんのちくわの穴に、練りからしをたっぷり仕込まれたのだ。
知らずに食べて激しくむせ込み、涙目になる明花を見た照美と佳乃は大喜びだった。秋人に咎められてもなんのその。ちょっとした遊びだと佳乃は開きなおった。

いつも別々にとる食卓に誘われたのは、意地悪をするためだったのだ。家族として認めてもらえたのかもしれないと、幼心に多少なりともうれしく感じた自分が情けなかった。

以来、おでんはトラウマ。見るだけで苦いものが込み上げてくる。
おでんを売り出す冬のコンビニは、明花にとって心霊スポットのようなものだ。怖い。


「今から行く店はおでんを食べさせるところじゃないから安心していい」
「ありがとうございます」


おでんを嫌いな理由を聞かれなくてよかったとほっとする。
愛人の娘だと知っている貴俊なら、明花が置かれている状況をある程度想像できると思うが、自分から惨めな姿は晒したくない。

それからほどなくして、明花は繁華街の外れにあるレストランに到着した。
打ちっぱなしのコンクリートの壁にはためく、小さな赤青白のフラッグからフレンチの店だとわかる。高いデザイン性の外観が目を引く建物だ。
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