政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
敷地の奥にある駐車場に車を止め、彼と並んで店に向かう。体に触れたりしない控えめなエスコートが、明花に安心感を与える。
しかしそれも店内に入った途端、消え失せた。
ほのかな明かりとシックなブラックで統一された内装は高級な雰囲気を醸し出し、そういった場に不慣れな明花を必要以上に緊張させたのだ。
黒づくめの男性スタッフが、明花たちを中庭に誘う。てっきり店内で食事をするものだと思っていたため意表を突かれたが、貴俊が戸惑っていないところを見ると、彼には想定内なのだろう。もしくは敢えて外を選んだのかもしれない。
(三十畳くらいあるかな)
おおよその広さを目算するのは、不動産屋勤めの性分か。明花は円形のパティオをざっと見渡し、あたりをつけた。
一階建てのレストランのため高い壁に囲まれるような閉塞感はなく、頭上には夜空が広がる。青々とした芝生にテーブル席がひとつだけあった。外ではあるが、個室と言ってもいい。
ぽつぽつとライトが点在し、テーブルの上にはランタンが灯っていた。オレンジ色の淡い光がとても幻想的だ。
「素敵……」
明花が思わず呟くと、貴俊が微笑んだ気配がした。
向かい合って座ると、グラスに飲み物が注がれる。