政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「秋人さんに?」
「なんの用で明花をここに呼んだの?」


険しい表情の照美に続き、佳乃も不快感をあらわにする。母親とよく似た顔立ちをした佳乃は、照美以上に鋭い目で明花を見た。
毛先をくるんと巻いたロングヘアを後ろにかき上げてから、胸の前で腕を組み仁王立ちする。

ふたりから発せられる嫌悪感が凄まじい。明花に対する拒絶反応を全身で示していた。
そうされるとわかっていても、委縮して肩を小さく丸める。急に空気が重く感じて呼吸がしづらい。


「じつは大事な話があってね」
「大事な話? どうして明花まで?」


照美は、明花が純粋な雪平家の人間でもないのにと言いたいのだろう。
その認識は合っているため、明花が冷遇されるのも仕方がない。明花は、秋人と愛人との間にできた子どもなのだ。

明花が四歳のときに母はこの世を去った。病気が判明してからわずか一カ月後のことだったと聞く。両親を早くに亡くしていた母には兄弟もおらず、結果、明花は天涯孤独の身となってしまった。
見かねた父、秋人が周囲を必死に説得し、明花は認知されたうえでこの雪平家に引き取られたのだ。
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