政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「ノンアルのスパークリングワインだけど、アルコールのほうがよければ変えてもらうよ」
「あ、いえっ、貴俊さんと同じがいいです」


どちらかと言えばお酒は好きなほうだが、車の運転が控えている彼が飲まないのに、ひとりで飲むわけにはいかない。
細かな気泡が浮かぶローズピンク色のグラスを持ち、お互いに傾け合う。ブドウの瑞々しい香りと味わいが口の中に広がり、鼻から抜けていく。上品な口当たりだ。


「結婚式はこれから準備していくとして、明花に異論がなければ婚姻届はなるべく早く出そうと考えている」


対外的に早急に妻の存在が必要なのかもしれない。とにかく明花は貴俊に従うまでだ。


「はい」


貴俊は封筒から出した薄っぺらの紙をテーブルに広げた。婚姻届だ。
まさかこの場に婚姻届が登場するとは予想もしていなかった。会った初日にプロポーズされ、婚約指輪をもらったかと思えば、今度は婚姻届ときた。

自分の身の上に起きている出来事には思えない。
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