政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
「明花?」
目を瞬かせていたため、貴俊が怪訝そうに明花を呼ぶ。
「す、すみません、婚姻届が今夜用意されているとは想像もしていなかったので」
しかも貴俊の記名も済んでいる。丁寧な楷書体の文字は容姿同様に美しい。
「驚かせたのなら悪かった」
「いいえ、大丈夫です。すぐにサインします」
結婚が決まっているのなら、今日書こうが後日書こうが同じ。この結婚は互いに条件が整ったから交わされる契約のようなもの。せっかく彼が段取りよく準備してくれものを拒絶するのはおかしな話だし、とにかく明花は彼の言う通りにするまでなのだ。
貴俊が差し出した万年筆を借り、明花は名前や住所を記載した。
「あとで明花のお父様に証人欄へのサインをもらっておいてほしい」
「わかりました」