政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
すでに貴俊側の証人の欄には彼の父親の名前が記されている。
(なんだかものすごく神聖な紙に感じるわ……)
わけもなく緊張するのは、この一枚で人生が様変わりするからだろう。名字が変わるだけではない。貴俊は、これからの未来を一緒に歩いていく相手なのだ。
この結婚が政略的なものだとしても、その事実は変わらない。
明花は婚姻届を慎重に畳んで封筒に戻した。
「結婚後は仕事を辞めたほうがいいでしょうか」
「キミが続けたいのであれば、俺に異論はないよ」
「よかった」
片野夫妻をがっかりさせずに済むのはもちろん、明花自身も居場所を失わずにいられるとわかりほっとする。
「さっき伺ったときにも感じたけど、いい職場みたいだ」
「はい、社長にも奥様にもとてもよくしていただいて気持ちよく働いています。同僚にも仲良くしてもらっているので、仕事を続けていいと言っていただいてうれしいです」
「あぁ、あの金髪の子だね。煎餅が大好物だとか」