政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
そのときの万智の様子を思い出したのか、貴俊がクスッと笑う。
「はい、お煎餅には目がなくて」
休日にはおいしいお煎餅を探して、遠くまで足を伸ばしているという。
「とても明るくていい子なんです」
「それはなによりだ」
ほんの数分のやり取りでも、社長夫妻や万智の人柄の良さは伝わっているのだろう。貴俊は軽く頷いた。
ほどなくして前菜が運ばれ、ゆっくりコース料理が進んでいく。
「パテ・アン・クルートでございます。森をテーマにマッシュルームなどのきのこをふんだんに使った、テリーヌのパイ包みになります」
真っ白な皿にはソースが美しいラインを描いていた。
早速口に運んだテリーヌは、香りと酸味が絶妙なバランスだ。
「おいしい」