政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
レストランをあとにし、貴俊は自分が暮らすマンションに明花を案内した。
そこはグループの建設会社が手掛けた低層のマンションで、今後ふたりが生活をともにする部屋だという。
落ち着いたベージュのクラシカルな外観は閑静な住宅街の景色に溶け込みつつ、品の良さが窺える。地下駐車場からエレベーターで一階に上がり、エントランスホールを前にした明花は息を飲んだ。
二層吹き抜けになったフロアにはグレーの大理石が敷き詰められ、圧巻の光景を見せつける。金、黒、茶のランダムなアートピースは天井まで続き、精緻な細工を施されたデザインウォールが壁の一面に張り巡らせられていた。
その一角にあるカウンターの中ではコンシェルジュがふたり待機し、出入り口には警備室まである。
(すごい。これが高級マンションなのね……)
日本を代表する大企業の次期社長であれば庶民とかけ離れた暮らしをしているのは頭では理解していたが、自分の想像力がいかに未熟であるかを思い知らされる。
不動産屋に勤めているが扱う物件はまるで違うし、生きてきた世界が違うのだから仕方がないと慰める以外にない。
駐車場からここまで平静を保ってきたが、言葉も出ないほどに圧倒される。つい足を止めて見入っていると、貴俊が明花の肩に軽く触れ、歩みを促した。