政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「あ、すみません」
「いや」


その手はすぐに離れ、明花の半歩先を行く。セキュリティゲートを四回も通り抜け、短い毛足の絨毯を歩いていくと、黒い木製の二枚扉が現れた。
貴俊がカードキーをかざして開錠する。


「えっ、ここですか?」
「そうだけど、どうして?」
「てっきりエレベーターで上がるのかと思いました」


外から見た感じだと、このマンションは三階建て。タワマンならきっと最上階というように、次期社長の肩書から階上に住むものだと勝手に決めつけていた。


「庭が欲しくてね」
「庭、ですか」
「いくら広くても、バルコニーより断然庭がいい。それなら戸建てにすればいいのにと思うかもしれないけど、マンションのほうがセキュリティ面でも安心だ」
「そうなんですね」


なるほど。たしかにコンシェルジュはふたりもいるし、警備室があるところを見ると警備員も常駐しているのだろう。部屋に向かうにはゲートを四カ所も通らなければならず、侵入はまず無理だ。
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