政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

ただしそれには秋人が遺言状を作成し、明花には遺産を相続させないことを明記するという条件があった。明花にいたっては成人した際に、相続の遺留分を放棄する旨の証書を書かされている。
明花がこの家に引き取られるにあたり、事が容易に運ばなかったのは言うまでもない。

そもそも夫が外で作った子どもを引き取った照美こそ被害者だろう。明花に辛くあたらずにいられなくて当然だ。
そしてそれは佳乃も同様に。半分血が繋がっているとはいえ、母親を悲しませた女の子どもを妹だと思えなくても仕方がない。


「それにしても、ますますあの女に似てきて不愉快だわ」


照美が吐き捨てるように言う。〝あの女〟とは明花の母親にほかならない。
夫の愛人にそっくりな女が目の前にいれば不快になるのも無理はないため、明花は黙って俯く以外にない。

母が亡くなったのは四歳のときだったため明花自身の記憶にはないが、秋人からもらった写真の中の母は、自分だと疑うほど似ている。知らない場所で明花が知らないうちに撮影されたもののように。アーモンド形の目やふっくらとした唇、色白の肌など、それこそ生き写しなのだ。


「とりあえず座って話さないか」
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